2016年、天皇陛下が「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなる」と述べられました。とても印象深いものでした。
心臓の手術もされていますし、年齢も高齢の域に入られています。30代の私ですら、怠けているとすぐに運動不足になって体力の衰えを感じます。80代の陛下が毎日の重要行事をこなされる中で疲労を感じやすくなっていても不思議ではありません。
あの「おことば」を聞いたとき、今上陛下は、「天皇は日本国および日本国民統合の象徴としての務めを果たすことができなければならない」というお考えを持っていらっしゃるのだろうと思われました。摂政を置いて天皇の務めを代行させるくらいならば、天皇の務めを十分に行える継承者に引き継いだ方が国民のためになるとのお考えなのだろうと思います。
さて、『池上彰の「天皇とは何ですか?」』という本について語ろうと思います。
この本では、明治時代に施行された大日本帝国憲法の成立から書かれています。今の日本国憲法は単独で新しく作られたものではなく、大日本帝国憲法を改正したものなので、大日本帝国憲法からの流れを押さえておく必要があるからです。
さすが池上さん。憲法という難しい話を、上手い流れで書かれています。
憲法が出来上がった流れを説明したあとは、皇室の構成や天皇の仕事などについて書かれています。
私は、親王、内親王という呼び方や「宮」の使い方の違い(例えば「秋篠宮」の「宮」と、「敬宮」さまの「宮」という違い)についてあやふやでしたが、区別ができるようになりました。古事記や日本書紀の説明も分かりやすかったです。そして、想像はしていましたが、お務めの大変さを思い知ることになりました。
最後に元侍従長の渡邉允さんとの対談が掲載されています。
ここでは、天皇陛下と皇后陛下のお人柄を知ることができました。具体的なエピソードが語られています。
一番面白かった(「面白い」と言っては失礼かと思いますが…)のが、皇太子時代に那須の御用邸から外へと車を運転されたときのお話です〔このエピソードは、池上さんの解説番組でも紹介されていました〕。
そして、胸が締め付けられたエピソードがありまして、それは、天皇陛下がご成婚五十年にあたっての記者会見において「語らひを重ねゆきつつ気がつきぬ われのこころに開きたる窓」という歌を引用され、「結婚によって開かれた窓から私は多くのものを吸収し、今日の自分をつくっていったことを感じます。結婚五〇年を本当に感謝の気持ちで迎えます」とお答えになりながら声を詰まらせた…というものです。元侍従長の渡邉さんが「想像するにこういうことだろう」ということをおっしゃっているのですが、それを読んで、胸が締め付けられるような感覚になりました。
退位が目前に控えている今、平成の時代を振り返ったり、天皇皇后両陛下のあゆみを振り返るテレビ番組が放送されていますが、この本で「天皇とは何だろう」と考えながら平成の時代へ思いをはせるのはいかがでしょうか。
天皇皇后両陛下には、身体の衰えはありつつも、ご健康なうちに退位の日を迎えられ、そののちは好きなものに触れて過ごしていただきたいです。